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芝生の上で、文字通り大の字になる、大介。空が暗いのは
カメラの性能のせいでなく、雨雲が固まっているせいだ。
「和邇駅」駅前の高架で、他愛ない話に盛り上がる2人。
まわりの白い眼が気にならないのは、地元ではないから。
写真の奥、テントが複数立っているのが、ボート乗り場。その手前が
ビーチである。砂浜の雑草といい、さびれ具合がよくわかるだろう。
ラーメン屋「天平」で夕食を食った後、なつかしマンガで時間を
潰す2人。こういうところで読むマンガは、妙に面白く感じる。
テント2つが、ギリギリ入る東屋。すぐ近くにトイレがあるし、
炊事場に水道があるし、野宿場としては申し分ない。
次の日撮影したものだが、ここがひと晩を過ごすことに
なった、食堂。公園を一望でき、最高の眺めである。
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今回の旅ほど、計画に頭をかかえたことはない。
行き先、目的、持ち物、道順・・・どれをとっても、いつもとは違った考えが頭をよぎる。
なぜなら、今回は「2人旅」なのだから。
パートナーは、大学の友人である、大介(仮称)。
最近彼が、長距離を走れる自転車を手に入れ、ちょっと長距離を走りたくなったとのこと。
ちょうどそのころ、僕は僕で7月の3連休にどこ行くか、悩んでいた。
3日以内で自転車でまわれる場所は、たいがいまわり尽くした。
こうなると、今までと趣向を変えざるを得ない。
そう、例えば「2人旅」とか・・・
そんな双方の需要が、今回の旅へとつながった。
さて、当日。
午前9時に、我が家へ大介がやって来た。
どんな荷物を持ってくるかと思いきや、ラグビーボールほどのカバン1つのみ。
いっぽう僕は、通常どおり前カゴと後ろの荷台に、荷物をわんさかくくりつけている。
一緒に走っていて、まわりの人は同じ仲間だと認めてくれるだろうか。
天気は良好で、道は迷うことなく順調。
そらぁ、琵琶湖へは自転車で毎年行ってるからね。
途中、コンビニやら自転車屋やら、何度か寄り道した。
特に大介は自転車に荷物を積むのがはじめてであるため、荷物の積む位置やサドルの位置調整が必要だったのだ。
今までの僕なら、こういう自分以外の寄り道をした場合、あからさまに不機嫌になっていた。
が、今回は平気。
ずいぶんと、精神的にオトナになったかな、と勝手に思っていた。
はたから見たら「そうか?」と思えるほど当然のことだろうが、ちょっと前までの僕は信じられないほど“子ども”だったのだ。
京都から滋賀へ抜ける峠は、足をつくことなく難なくクリア。
昔2人でこの峠を越えたことがあったが、そのときは坂に負けて自転車を押し歩いた。
大介は「俺は自転車が軽いから、自分(=僕)は脚を鍛え上げたからだろう」と言う。
が、おそらく坂の上り方が、昔よりもうまくなったからだろう。
昔は、坂を上るときは、あからじめ助走をつけるとラクだと思っていた。
が、それは逆効果であることを、今は知っている。
長い坂は、いかにスタミナを温存するかが大事なのだ。
つまり、ゆっくり走らなければならない。
琵琶湖のふもと、大津市へ着き、まずはひと休憩。
一面に芝生の生える公園で、大の字になった。
「そろそろ昼ごはん食べようか」と言い出したころ、突然空が曇りだした。
これは通り雨だと直感し、すぐさま近くの観光フェリー乗り場へ避難。
まもなく激しい雨が降り、難を逃れた。
ちょうど観光フェリー乗り場にレストランがあったので、ついでに昼食をとった。
雨の降るタイミングのよさを感じながら、峠の途中でよく降らなかったものだと安堵の気持ちを覚えた。
昼食をとり、雨が完全にやむのを確認してから、再出発。
市街地を、ひたすら北上した。
天気は時折くもったりしたが、基本的には晴天。
道路にある気温情報は「35度」。
ふたこと目には「暑い」と言ってしまうほど、猛暑が続く。
やがて、目星をつけていたビーチ「和邇浜水泳場」に近づいた。
すると、それを見透かされかのように、また厚い雲。
近くの駅へしばらく待機すると、案の定まとまった雨が降った。
しかも今回は、雨の降り続く時間が長い!
1時間は降っただろう。
「駅構内禁煙」であったため、喫煙者の大介とともに、外の高架下へ移動した。
野宿用のシートを敷き、ストリートミュージシャンとも物乞いとも見える格好で、座った。
他愛ないことを、えんえんと話す2人。
「旅中の雨宿り」と思えば非常に楽しい時間であるが、「連休のまっぴるま」と思えば実に無駄な時間である。
雨がやんだところで、いよいよビーチへ。
・・・あれ?
ブイに囲まれた遊泳ゾーンには、誰一人として泳いでいる人がいない。
いっぽう、ブイの隣にはボート乗りの集団がにぎわっている。
何だ、この極端な空気の違いは?
ただならぬ「やってしまった」感を覚えつつ、せっかくビーチへ来たので、すぐさま着替えて湖に飛び込んだ。
適度な深さがあり、足場は砂地になっていて、悪くはない。
と思いきや、少し深い場所へ進むと、水草がのび放題。
さらには、藻(も)の塊がうようよ浮いていて、気持ちが悪い。
とてもこんなところでは、泳がれない!
早くも見切りをつけ、すぐにあがった。
体の汗を流せたというさっぱり感はあるが、それ以上に何ともいえない気持ち悪さが残った。
時刻は夕方17時過ぎ。
そろそろ夕飯時である。
そういえば、この近くに「天平」というラーメン屋がある。
このラーメン屋、大介と2人で滋賀のスキー場へ行くと、帰りに決まって立ち寄るところだ。
大介が「ナンバー1か2」と絶賛するほど、うまい!
そんな話題をしていたころ、タイミングよく「天平」の看板が見えた。
と同時に、これまたタイミングよく、雨が降ってきた。
当然、迷うことなくお店へ入った。
食後も、雨はなかなか降りやまない。
さらに2人とも疲れがあるため、会話もあまり進まない。
とりあえずお店にあったマンガ本を、えんえん読みあさった。
雨がやんで再出発したのは、もう午後6時過ぎ。
分単位で暗くなる空を感じつつ、ひたすらバイパス道を北上した。
宿が決まっておらず、天気が不安定。
1人だったら気分が滅入るところだが、逆に何ともいえない充実感に満たされている。
この安堵感こそ、1人旅と2人旅の大きな違いだろう。
午後7時半、ちょうど日が沈んだころ、「新旭駅」という駅前に到着。
ここは僕が以前歩いて琵琶湖をまわったとき、「素泊3,00円」という宿を見つけた場所である。
ユースホステルより安いので、ここをあてにしたのだ。
が、ない!
目的の宿はおろか、駅前に宿という宿が、まったく見当たらない。
どうやらわずが数年で、宿もなくなったのだろう。
アテがはずれ、しばし呆然とする2人。
それもそのはず、自転車で1日走っただけでなく、水泳もしているのだ。
心身ともに、疲労困憊(こんぱい)している。
そのうえ宿がないとなれば、イヤでも脱力してしまう。
とりあえず、手元の地図とにらめっこ。
すると、4キロ東へ行ったところに、「道の駅 風車村」という施設を発見。
ここはお風呂が併設された、キャンプ場があるそうだ。
迷うことなく、そこへ向かった。
街灯の少ない、田園に囲まれた道を進むと、10分そこらで風車村に着いた。
が、驚くほどに活気がない。
まだお風呂は営業中で、キャンプ場はあるはずなのに。
念のため案内板を調べてみると、案の定お風呂の案内はなし。
手元にある地図は7年前のものなので、その7年間にすっかりさびれてしまったのだろう。
キャンプ場も、人っ子ひとりいない。
天気が心配なので、屋根のある場所を選んだ。
屋根を探すと、小さな東屋が1つと、広めの炊事場、広めの食堂があった。
炊事場と食堂は街灯が当たらないため、何か不気味な雰囲気がただよっている。
だから街灯のすぐ近くにある、小さな東屋にした。
テントは、僕が1人用、大介が3人用を使用した。
当初は3人用で一緒に寝るつもりだったが、さすがに暑いしお風呂入ってないしで、キモチワルすぎる。
これで寝床は確保。
しかし、午後8時過ぎではさすがに眠る気がおきない。
とりあえず、風車村をぐるりと周遊することにした。
風車村の敷地は広い。
名のとおり、場内に風車小屋がいくつか点在する。
先ほど施設が「さびれている」と表現したが、芝生はしっかり手入れされているし、ベンチなど細かな備品もまったく老朽化していない。
きっと昼間来ると、楽しいのだろう。
それはそうと、やたらとクモが多い。
だいたい5分ごとに1回、クモの巣が顔にまとわりつく。
あと多いのが、花火をしに来る客。
敷地が広いし、車も止め放題なので、やりやすいのだろう。
ひととおりまわり終え、就寝することにした。
テントに入り、横になる。
疲れているはずなのに、どうも眠くならない。
やはり、まだ時間が早いせいか?
テントに入って少ししたころ、人の声が聞こえた。
若者達の集団だ。
散歩かな?と思って耳を澄ませていたら、テントの比較的近くで足が止まった。
まさか・・・
と思ってた矢先、予感は的中。
その場で、花火をしだした。
この時期の野宿には、花火による睡眠妨害はつきもの。
これは去年から痛感していることであり、妥協すべきとわかっていることだ。
それにしても、わざわざテントがあるのわかってんのに、近くでせんでもねぇ。
こいつは当分眠れないと判断し、テントから出て日記を書いたり、地図を眺めたりして過ごした。
大介は相変わらずテントの中だが、就寝については僕以上に神経質な彼は、きっとテント内で起きているだろう。
30分ほど経過しただろうか、突然若者が去って行った。
理由は、稲光(いなびかり)。
「カミナリ落ちちゃうかも〜」という言葉を交わしながら、退散したようだ。
雷ナイス!
などと言っている場合ではない。
稲光が近づいているということは、またも激しい雨が降るということではないか!
それに気づいたころにはすでに遅く、突然雨が降り出した。
東屋の屋根を叩く雨音と、鳴り止まない雷の音、そして鳴きやまないカエルの鳴き声で、眠るどころの騒ぎではない。
大介もいつの間にやらテントから出た。
雨はものすごく激しく、今の東屋では雨を防ぎきれなくなった。
とりあえず風邪ひくと元も子もないので、広い屋根のある食堂へダッシュで逃げた。
ここまで来ると、疲れや眠気などはなくなってしまう。
雷が過ぎるまで、大介とくだらない会話に華を咲かせた。
野外なので、当然雲は丸見え。
稲光はあまり見えなかったが、ひっきりなしに空が白く光るさまを、何度も見た。
こんな臨場感たっぷりに雷を体感したのは、生涯はじめてだろう。
結局、小雨になったのは午前12時過ぎ。
本当に長い間、雨は降り続いたのだ。
ここぞとばかりに、テントや荷物一式を、食堂へ移動。
生涯でいちばん雨宿りした1日を回顧しながら、お互い寝床についた。
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