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道沿いにあると思いきや、民家の裏手の、小高い丘に建つ
1番札所。そう、この巡礼はお堂探しが醍醐味である。
昔ながらの内装が妙に落ち着く、「来々軒」。
客も店員も社交的で、孤独感が満たされる。
白基調の服装に輪袈裟。お遍路というより、中年太り
した夏休みのお父さんが、日曜大工する姿に近い。
お堂といっても、見た目はバス停の休憩所みたいな感じ。
お遍路のことを知らなければ、目にも留まらないだろう。
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前夜に、まさかの体調不良。
熱こそ低めであるが、ノドの痛み・せき・鼻水・脱力感など、かぜの諸症状がオンパレードである。
さらに言えば、ちょっと前から続いている首の激痛やら、じんましんやら、とても旅には適さないコンディションである。
それでも旅を強行したのは、せっかくの有給をとって、3連休を確保したため。
つい先日まで続いた、半年間にわたる仕事の激務。
それを越えてようやく得た有給を、ムダにはしたくなかったのだ。
向かった先は、広島県は尾道市街から海を挟んで対岸にある、向島(むかいじま)。
この島へ、「島遍路」ないし「お大師さん」と呼ばれる、四国遍路を模した88箇所めぐりをしに来たのだ。
前々から、これをキックボードでまわるという構想があり、ようやく実現するときが来たのだ。
向島へ着くなり、渡船乗り場からすぐ近くの、本日泊まる宿へと向かう。
話好きの宿のおばちゃんと言葉を交わしつつ、荷物を預かってもらう。
いつもみたいに、重い荷物を背負って走り回る必要がないため、非常にラクチンである。
軽く説明しておこう。
お遍路には、服装やらめぐり方に、いくつかのルールがある。
すべてのルールを完全に行う必要はなく、できる範囲でやればよい、となっているそうだ。
そこでまず、服装は次のとおりとした。
・白い半ソデ・短パン
・白い軍手
・輪袈裟(お坊さんが肩からかけているやつ)
・金剛杖風にカスタムしたキックボード(金剛杖とは、本来は巡礼者が手にする木の杖である)
また、巡礼方法は次のとおりとした。
・「巡礼コース」という道順に対し、可能な限り忠実に従う
・ローソク・線香を供える
・お賽銭(1円玉)を供える
・納め札を供える(住所・氏名・願望などを書く小さなお札)
・読経
宿から30分かけて、巡礼1番目のあるお寺へと移動。
しかし、どこにあるのかが、わからない。
あらかじめネットで調べ印刷してきた地図を見ると、近くにあることは確実なのだが。
いきなりつまずいてどないすんねん、と落胆しながら、10分だか15分だかして、ようやく発見。
路地の脇からのびた、小さな階段を上った高台にあった。
そりゃあ、見つかりにくいよ。
ちなみに、お寺といっても、広大な敷地に住職が住んでいる、というものではない。
8畳程度の広さがある祠(ほこら)に、お地蔵さんが奉られている、といったもの。
持参したローソクと線香に火をつけ、合掌しながら、覚えていないのでメモしてきた「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」というお経を唱える。
これでようやく1番の巡礼終了なのだから、先が思いやられる。
1時間で6番までまわってから、昼食へ。
「ラーメンの店★来々軒」と書かれた、赤く大きな看板が印象的な、尾道ラーメンのお店。
看板の色あせ具合もさながら、赤というかピンクに統一されたカウンターやテーブルは、いかにも昭和のラーメン屋といった雰囲気だ。
驚くべきは値段で、ラーメン大盛がたったの500円!
もちろん、ちゃんとチャーシューもメンマもトッピングされ、尾道ラーメンの特徴である、背脂も浮いている。
で、肝心の味は・・・
残念ながら、薄く感じる。
いや、これはラーメンそのものが悪いのではなく、僕の体調がいけないのだろう。
体調不良は、いぜん続いているのだ。
昼食後、避暑も兼ねてしばらくお店で長居していると、お店の人が声をかけてくれた。
キックボードの話をすると、かなり興味を持っていただき、いろいろと質問をされた。
途中から、常連さんと思わしきお客さんも話題に入り、実に充実した時間を過ごす。
再出発後は、4つに1つくらい、場所がわからず迷う。
印刷してきた地図では建造物までは確認できず、だいたいの場所までしかわからない。
おまけに、道にまったく案内がないため、本当にわからなくなるのだ。
さらに、体調不良が追い討ちをかけてくる。
そう四苦八苦しているうちに、次第に場所探しに慣れてくる。
「寺や神社の敷地」「墓地」「高台」に、よくありがちであることに気づきはじめたのだ。
地図を凝視しなくとも、遠めから「あの場所あやしいな」と感じる場所がある。
で、近づいたらビンゴ、なんてことがしばしば。
1日目で、結局まわれたのは20箇所。
午後5時という早めの時間に切り上げたのは、離島なら交通の要だろうと思っていたバスが、数時間に1本しかないためである。
温泉宿というのがありがたく、ゆっくりとつかり、1日の疲れを癒やす。
気分的なものもあるだろうが、体中の疲れが一気に抜けていくのを感じた。
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