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昨夜お世話になった、ビジネスホテル「梅元」をあとにして出発。
しばらく、港町という雰囲気がなく、ただフツーの田舎町が続く。
鳥羽行きのフェリー乗り場へ、早く着きすぎた。近くの露天に
「大あさり焼」他、名産品が食べられる屋台が大繁盛だ。
狭〜い道が続く、志摩の半島。こういう生活感あふれる
場所を通るのは、非常に気持ちがよく、どこかなつかしい。
民家を抜けて行くと、突然バァ〜っと海が広がる。こんなに
青い海が、本州にもあったんだな。のけぞるほどきれいだ。
写真中央に隠れているのが、乗り込むクルーザー。本当に
小さい。ちなみに左にいるお兄さんと、この後仲良くなる。
筐体は小さいが、パワーはでっかい。ものすっごいスピードで
海上を走るさまは、男前。最高のクルージングを楽しめた。
伊勢神宮界隈は、街のオブジェがすでに神宮らしき風情が
感じられる。今度来るときは、絶対観光してやるっ!
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予感的中!
昨夜は、寝つきが悪かった。
午後9時には部屋の電気を消したのだが、12時ごろまで目が覚めていた。
あまりに寝苦しいので、クーラーを少しきつめにかけたら、その後ぐっすりと眠れた。
どうやら、ただ暑かっただけらしい。
午前6時、出発。
昨日は暗くて見えなかった街並みは、海沿いをあまり感じさせない、ちょっとした田舎町。
知多半島でも西側は、ビーチが並んでにぎやかなのに、こちら東側はえらく印象が違う。
しばらく走って、知多半島の先端に到着。
つまり、鳥羽行きのフェリー乗り場だ。
午前8時だというのに、車はアホほど並び、家族連れがわんさかいる。
フェリーの航路が次々と閉鎖されていく中、ここはまだまだ心配なさそうだ。
ちなみに予定のフェリーに乗るまで、1時間半もある。
しばらくそこいらをウロウロしたり、土産屋の「せんべいの試食」を朝食代わりにバリバリ食べた。
さて、フェリーだ。
甲板にあるいすを陣取り、ひと眠り・・・と思ったが、甲板に人が多かったため、いすを何席も占領して寝るのは、ちょっと気がひけた。
少し人が少なくなったのを見計らって寝転がったら、今度はフェリーに犬を連れてるバカがいて、鳴き声がうるさい。
動物を連れて来るる行為自体はいいが、吠えさすなよ。
それにも耐え、ようやくウトウトしだしたら、今度は突然、甲板に客が押し寄せて来た。
何かと見ると、フェリーの向こうっかわに、イルカが泳いでいる。
おぉ、こいつは珍しい!
水族館以外でイルカを見るのははじめてなんで、しばらく眠るのをあきらめて眺めた。
結局、10分ほどしか眠れず、フェリーは鳥羽へ到着。
わずか10分ながらも、眠った効果は大きく、気分よく走れた。
向かった先は、志摩。
地図で見ると、日本大陸がちぎれて、フックのような形になった半島だ。
その志摩へ着いたのが、時間的にいちばんキツい、午後1時ごろ。
しかし、今日に限ってはやる気が失せたり、バテることがなかった。
なぜなら、志摩の風景がすばらしかったから!
ゆるやかなアップダウンのある道は、車が何とかすれ違えるほどの狭さ。
リゾート地と思っていたら、情緒あふれる昔の町といった感じ。
それをしばらく進むと、突然パァーっと、目の前に青い海が広がる。
「吸い込まれそうな景色」とはまさにこのことで、思わず恍惚としてしまった。
わずか1時間足らずで半島の先端へ着いたが、風景はこの旅でいちばん良かった。
半島の先端、かつてはカーフェリーが開港していたらしいが、現在は観光船(クルーザー)しかない。
そのことを知らなかったのか、ライダー数人が、立ち往生していた。
僕も、半島を折り返すのはダルイので、できればフェリーに乗りたい。
ダメだろうと、一応観光船の番をしている中学生風の少年に聞いて見た。
「自転車は乗れますよ」
思いがけない朗報!
「えっ、ホント?いくら?何時に来るの?荷物降ろしたほうがいいよね。自転車ここ置いといていい?」
あまりのうれしさに、ついついはしゃいでしまい、まわりの白い視線に気がつくのが遅れてしまった。
10分ほど待っていると、小型のクルーザー船がやって来た。
思ってた以上に小さく、自転車は本当に乗せられるのか、ちょっと不安だった。
すると、おもむろに自転車を乗っけられたと思いきや、クルーザー前面の甲板上に横倒しにされ、ぐるぐる巻きに縛られた。
何という力技!
クルージング時間は、約20分。
1,000円弱の出費は今のおサイフ事情ではかなりイタイが、暑い時間帯に道をショートカットできることを思えば安いもの。
とりあえず、さわやかにクルージングを楽しもう。
クルーザー後部の甲板へ行き、しばし風景を楽しんだ。
ポツポツと小さな島が点在している間を、クルーザーの荒いモーター音で駆け抜けるさまは、フェリーとは違った味わいがあった。
風景をひととおり見たところで、すぐ近くにいたお兄さんに声をかけられた。
がっちりとした体格は日焼けして、手にあるナップサックが「旅人です!」と言わんばかりに目立った。
どうやら神奈川から、電車を乗り継いでここまで来たらしい。
すっかり意気投合し、フェリーが到着するまで、互いに話し込んだ。
そういえば、近頃旅をしながら人と交流するということを、すっかりしていなかった。
旅人としての大事なものを、思い出させてもらった気がした。
対岸へ到着し、「またどっかで会おう!」と旅人らしきあいさつをして、お兄さんとは別れた。
自転車に荷物を積んでいると、今度はクルーザーの運転手、および受付にいる人らに話しかけられた。
何だかやけに、人に話しかけられる日だ。
いろいろ道のアドバイスなどをいただき、大変親切にしていただいた。
さて、再出発。
目的地である三重・津市まで北上するには、2つのルートがある。
1つは国道を通るルートで、一旦鳥羽まで行くものだ。
来た道なので迷うことはないが、道が「く」の字に曲がるので、やや遠回りになる。
もう1つは県道ルートで、まっすぐ北上できるのだが、明らかに道が細く、峠となっている。
どっちがいいかな〜、と考えながら走っているうちに、気がついたらすっかり県道ルートに乗っていることに気がついた。
まぁ、ヒザも元気だし、いっちょ冒険してみよう。
おおよその想像どおり、ひたすら厳しい上り坂だ。
しかも道は想像以上に狭く、しんどいからと言って、立ち止まることができない。
なんて危険なところに来てしまったんだ、と後悔しても、もちろん引き返す気はさらさらない。
ようやく峠を越え、今度は下り。
当然ながら、上りが辛かった分、かなりスピードが出るし、ラクチンだ。
ただ、相変わらず道が狭く、さらに後ろから車が次から次へと来る。
左へ寄ると溝へ落ちて大けが、右へ寄ると車とぶつかり大けがなので、集中力を欠かすことができない。
対向車が来るたびに、僕のすぐ後ろで待ってくれたドライバーの方々には、申し訳ないと思った。
あと、数多くのドライバーに迷惑をかけているはずなのに、誰一人クラクションを鳴らさなかったことは、余計に申し訳なさを感じた。
県道を越えたら、そこは伊勢神宮のすぐ近く。
せっかくだし軽くお参りしたいところだが、伊勢神宮についてはサッパリ知識がないので、もうちょっと勉強してから来たいと思った。
ややもったいない気持ちを抑えつつ、再度北へ北へと進んだ。
夕刻、左右に田園が広がるなか、目の前には夕日がまんまると浮かんでいた。
道は平坦で、十分な路肩がある。
気分はもう、最高潮に達していた。
やっぱり、旅はいい。
自分は仕事のために生きているのではなく、こうして旅をするため生きているのだ。
ただならぬ達成感と満足感を存分に感じながら、やがて日が沈む。
宿は、1日目に泊まったネットカフェでいいか。
国道沿いなので、宿を探すのは難しそうだし。
パーン、カラカラ・・・
胸いっぱいに広がっていた「幸福」を、一気に破裂させたような音が、突然耳の中に飛び込んだ。
決して大きな音ではなかったが、リラックスした体を一気に硬直させるには、十分な音だ。
明らかに、自転車のタイヤが破損した音。
あたりはすっかり闇。
さっきまでの気分とはあまりにも違った絶望感が、脳全体を覆った。
とりあえず、照明のある紳士服屋の看板前で止まり、すぐさまパンク修理。
タイヤを見てみると、クギ状の鉄クズが、思いっきり後輪にささっている。
しかもチューブを取り出すと、タイヤを貫通していた。
貫通しているわけだから、2箇所の穴をふさがないといけないのだが、こう貫通されてはふさぎにくい。
30分かけて丹念に修理してみたが、直らなかった。
こんなとき、人間の洞察力というものは鋭く反応するものだ。
近くに、ホームセンターがあった。
時間は夜の9時前、直すにはそこでお願いするしかない。
自転車を押し歩き、ホームセンターへ。
サービスコーナーに、パンク修理をお願いした。
あぁ、これでひと安心・・・かと思いきや、修理担当の人が忙しくて対応できないそうだ。
「そこを何とか・・・」とすがる思いで頼んでみたが、何度頼んでも無理。
希望の火が、完全に消えてしまった。
サイフの中身は、5,000円を切っている。
ネットカフェで泊まるとしたら、3,000円マイナスとなり、パンク修理代はあっても、飲食代がなくなる。
何かこのまま、ここでのたれ死んでしまうのではないか?
夜に異郷の地でパンク、という現実を目の当たりにしているため、そんなことを真剣に考えた。
絶望の淵の中、とりあえずなるべく冷静に考えることにした。
今の自分がすべきことは、歩くことだ。
乗っているときには感じられなかった重みを腕に感じながら、自転車を支えてひたすら夜の国道を歩いた。
歩いても歩いても、風景はただ暗いだけ。
しかし、歩いているうちに、どんどん笑いがこみ上げて来た。
人間って不思議なものだ、本当に追い込まれたときは、笑ってしまうんだな。
そう思うと、さらにおかしくなってきた。
とりあえず、下を向かずに、前を見て歩こう。
そして、笑顔を絶やさないでおこう。
いつまでも暗い顔していたら自分に負けそうだったので、可能な限り現状を楽しんでやろう、と思った。
ネットカフェに着いたのは、それから1時間後の午後10時前。
わずか1時間だが、体感的には5時間くらいに感じられた。
それだけに、到着したときの安堵感は、たまらなかった。
とりあえず、自転車は近くの駅に置いて、電車で帰ろう。
当然、来週あたりに自転車を取りに来て、再度走らないといけない。
そう、今回は「リタイア」ではない、「中休み」だ。
旅はまだまだ続くぞ!
自分にそう言い聞かせ、とりあえず今日はゆっくり休むとしよう。
あまりにも“濃い”1日だったので、今日はさすがに熟睡できるだろう。
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