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わずかな幅の歩道を、神経を集中させながらひたすら
まっすぐ走る。本当に命がけの旅だな、と感じる。
峠を越えた後に見える海ほど美しいものはない。
ここからは坂のない道が、海沿いにえんえん続く。
思った以上にリアルな「獅子岩」。この近所の神社
には狛犬がなく、獅子岩がその代わりなんだとか。
大量のウミガメを、無料で見学。集団で集まってこられると
けっこう恐い。人の指をかみちぎる凶暴さもあるそうな。
風情や景色こそないながら、お湯はしっかりと温泉なので
湯上りぽかぽか。部屋もきれいで、宿のおねえさんもきれい♪
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すっかり雨はあがり、朝からいい天気。
市街地を走っていると、登校中の学生さんらを見かける。
そうか、今日は平日だっけ。
有給休暇を使って連休をもらっているので、すっかり平日であることを忘れていた。
学生さんの群れの中を走ると、何か自分がバカにされて見られるようで、とてもイヤである。
なるべく学生さんから目をそらすように走っていると、対向の歩道を歩く女子高生から声がかかった。
やはりバカにされて・・・と思いきや、何やら純粋に「すごい!」と思ってくれていたようだ。
「キックボードがんばれ!」と大声でエールをもらい、めちゃくちゃ元気が出た。
市街地を抜けると、やはり山道。
急坂ではないのだが、えんえんと上り坂が続く。
ここに来てようやく、脚に疲労感を覚える。
疲労を緩和したくても、まわりには山しかなく、休憩する場所がない。
歩道がなく、ガードレールのすぐ先は崖という場所が多く、生命の危機すら感じる。
そんな状況で差しかかった「矢ノ川トンネル」は、歩道の幅がわずか30センチくらいしかない。
しかもトンネルが3キロもあり、とにかく長い。
歩道から落ちたり、つまずいたりすると危険なので、とにかくめちゃくちゃ神経を集中しながら走る。
長いトンネルを抜け、もう1つのトンネルに入ったところで、後ろから来た自転車の人に、通りすがり声をかけられる。
ひとことあいさつしただけだが、向こうがこちらに興味を示していることを、直感的に感じた。
案の定、トンネルを抜けた先にある商店で、待ち伏せをしてくれていた。
足を止め、ジュースでも飲みながら話ししようか、としたときに、商店のおばちゃんが自販機のジュースをタダでくれた。
さらに、ジュースを何本でも飲んでいい、店にあるパンを食べていいと、言ってくれている。
このへん熊野古道があるから、おそらくお接待の文化があるのだろう。
さすがにお世話になるのは申し訳なさ過ぎるので、ジュース1本だけいただいた。
そして、自転車のお兄さんとしばらく雑談。
オフロード用の自転車で、名古屋から来ているとのこと。
しかも今から、那智の滝を見に行くそうな。
那智の滝といえば、けっこう坂道を上らないといけないはず。
なるほど、だからこそのオフロード用なのか。
自分が経験しないジャンルの旅をこなしているというだけで、ものすごくカッコよく思える。
ひとときの楽しい時間を過ごした後は、長い下り坂。
車も少なく、比較的なだらかな坂なので、けっこうスピードを出せる。
と気分よく走っていたところで、まさかのタイヤ破損。
これで2つ目。
ますます、タイヤの在庫が心配になってくる。
海岸と並行する道まで下りると、そこからはほぼ平らな道が続く。
今までさんざん上り下りをくり返していたので、安心感を覚える。
しかし、アスファルトがガタガタで、めちゃくちゃ走りにくい。
「キックボードが走りやすい道路を作れ!」とはさすがに言えず、訴えようのないイライラだけがわいてくる。
それにしても、この熊野のあたりは、観光スポットが多い。
名前どおり、獅子の横顔そっくりの巨大岩「獅子岩」。
日本最古の神社「花の窟神社」。
ウミガメが飼育されている「ウミガメ公園」。
いずれも無料で寄れるので、1つずつ立ち寄っては、じっくりその光景を楽しんだ。
今までの旅なら「観光より距離!」が優先だったので、絶対にしなかったことだ。
30歳くらいから理想にしていた「ゆとりを持つ旅」が、ようやくできるようになった。
夕方になると、長くは続かないまでも、また山道。
あいかわらず路肩も車幅もせまく、めちゃくちゃこわい。
それよりもこわいのが、昼間交換したばかりのタイヤから、また異音がしたこと。
さすがに1日2つも壊れては、とても在庫が足りない。
いずれ、民家をまわってキックボードのタイヤをゆずってもらうような交渉が必要になるのかな。
そんな、しょうもないことをリアルに考えながら、宿に到着。
宿が気功整体を行っているというのも驚きだが、何より驚いたのは、宿の受付のおねえさんがかわいいということ!
いや、ごくおっさん臭くすけべえな感想で申し訳ない。
旅の話も聞いてくれたりして、ただただ赤面するばかりである。
チェックインしてから、まずはお風呂。
何と、温泉である。
めちゃくちゃ気持ちがよかったのと、時間が早くて他の客がいないこともあり、1時間がっつり長湯をした。
さすがホンモノの温泉、湯上がり後は3時間くらい、ずっと体がぽかぽか。
夕涼みと食料調達がてら、外を散策。
駅前だというのに、商店がほとんどない。
那智勝浦といえば、有名な温泉地のはずなのに、ちょっと残念である。
1日いろんなことがあったなぁ〜、と部屋でふり返ると、朝の女子高生と、宿のおねえさんのことが頭をよぎる。
ほんま、ごく普通のおっさんになったものだ。
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