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前回の終着地が、ローカル線でないと来られない駅。
もっと大きな駅でないと、来るまでの時間がもったいない。
旅の道中、お祭りがあると、つい寄ってしまう。
こういうにぎやかな場所は、逆に孤独感が強まる。
外観だけでなく、内装もきれい。こんな民宿、
ひとりで素泊まりはもったいない!写真は翌朝撮影。
持ち込みのお弁当のあたためをお願いして、お皿に盛って
くれる気づかい。こんな素泊まり宿、他にないのでは?
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万全な準備が、必ずとも報われるわけではないことを知った。
1ヶ月前に、キックボードのメンテナンスをした。
3週間前から、ルートの確認と宿の確保をした。
2週間前から、ストレッチと筋力トレーニングをはじめた。
いつになく入念に、旅の準備をはじめた。
準備は万全、あとは当日を待つのみ。
ここまでしておきながら、出発前にとんでもない不安を抱えることになった。
手のひらのケガ。
前日、何もないところで道でこけ、手のひらをすりむいたのだ。
しかも、かなり広範囲かつ深め、である。
キックボードは、常にハンドルを握っておかないといけないため、とんでもないハンデキャップを背負うこととなりそうだ。
今回の旅の始点は、前回ゴールした「榎原(よわら)駅」というところ。
電車とモノレールを乗り継ぎ伊丹空港へ行き、飛行機で宮崎空港まで行き、宮崎空港から電車で3時間。
午前6時半に家を出発して、榎原駅へ到着したのは、午後2時。
もうすでに、1日分の旅行を済ませた気分である。
出発早々、山の中を抜けるアップダウンが続く。
勾配がきついわけではないが、旅の出だしとしては、少しハードに感じる。
空が厚い雲に覆われていることもあってか、なかなか気分がのらない。
やがて市街地の串間へ到着。
「串間神社」というところで、ひと休憩をする。
腰を下ろすや、突然雨が降り出す。
ますます、気分が落ちてしまう。
が、雨はすぐにやみ、以降は太陽がときどき顔を出すほどまでに、天気が回復する。
いきなり修羅場を体験するのか、と思っていたので、ひとまずは安心である。
そこからは、海岸線沿いの道を進む。
景色はいいのだが、あまりそれを楽しんでいられない。
というのも、時間が押してきているのだ。
とはいっても、初日から体を酷使したくはない。
急ぐ気持ちをおさえ、少しでも疲れを感じれば、すぐに休憩をとるように心がける。
こういう判断は、数年前まで、なかなかできなかったことである。
再び市街地へ入ると、道が広くなる。
路肩が広いため、安心して走れる。
と思っていた矢先、後ろから何度もクラクションを鳴らされる。
ふり返ると、どうやらキックボードで公道を走ることを快く思っていない、枯れ葉マークをつけた高齢ドライバーのようだ。
こんな広い路肩に、何の危険性が?
これで危ないと感じるのであれば、すぐさまあなたが免許を返上するべきでは?
不必要なクラクションは、道路交通法違反のはずなのに・・・
そこから、ずっとイライラが消えない。
そんな矢先、目の前にハザードをたいた車が停まる。
中から、両腕にタトゥーを入れた若者が出てきて、こちらに迫ってくる。
こわっ!
と思ったが、表情は友好的。
話すと、先ほど対向車線を走っているときに僕の姿を見て、引き返してきたのだとか。
キックボード旅に、ひどく感銘を受けてくださったそうな。
昔スケボーをやっていて、余計に共感を持ったらしい。
さらに「泊めることができる」との打診までいただいた。
本当にありがたいお言葉であるが、あいにく宿を予約してしまっている。
話すごとに出てくる「すごい」という言葉に強くはげまされる。
先ほどの怒りも、一気に吹っ飛ぶ。
夕暮れ近く。
宿まで、少しでも近道をしようと裏道へ入る。
すると途中から、手持ちの地図では現在地が確認できなくなる。
すぐさま取り出したのは、こんなとき用に持ってきたスマホ。
しかし、電波のせいかGPSのせいか、地図がうまく表示されない。
周辺地図を印刷してはいるが、そもそも裏道からの行き方までは示されていない。
どこかで曲がらないといけないはずなのに、どこで曲がればいいのやら。
分刻みで暗くなる空が、不安に追い討ちをかけてくる。
そんな矢先、向かいからやってきた車に、声をかけられる。
「どこ行くの?」と聞かれ、宿の名前を言うと、その宿の主人であった。
何という偶然だろう!
ていねいに道を案内いただき、やがて無事に宿へ到着。
到着してすぐ、近所にある温泉へ。
歩いて5分ほどの距離なのだが、わざわざ車で送ってくれた。
入浴後も、迎えに来てくれ、非常にありがたい。
あらためて、部屋へ。
部屋は8畳和室、広くてとてもきれいである。
また、広いテラスまで用意されている。
夕食は、スーパーで買ったお弁当を、テラスでいただく。
食べている途中、お宿の人が、レンジで温めてあげると打診してくれた。
遠慮なくお願いすると、温め終わったおかずを、わざわざお皿にうつしかえて持ってきてくれた。
食事を続けていると、隣の部屋の女性に声をかけられる。
250ccのスクーターで、全国をまわっているそうな。
ゆくは全県制覇、という目標を持ち、今までかなりの県をまわってきたそうな。
旅人同士でこうして話すことは、実に久しぶりである。
夕食にお借りした食器を返しに行くと、お宿の主人さんに、お部屋へ案内される。
焼酎のお湯割を1杯いただきながら、旅の話や世間話など、ゆったりとした時間を過ごす。
これほどまでに手厚いおもてなしを感じられる宿は、はじめてである。
心地よさを感じながらも、初日からビールと焼酎を飲みすぎて大丈夫か、という不安が頭をよぎる。
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