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気分のさえないときに、まさかの差し入れ。
冷えた水とエールは、何よりの財宝である。
溶岩のすき間から、無数に生える松の木。
植物の力強さを、まざまざと感じられる。
どこまでが雲なのか火山ガスなのか、絶えず山頂が
くもる御岳。間近で見る活火山の迫力はすごい。
ギターにジャンベに水たばこ。ヒッピーに
なれた気がする、貴重な長崎の夜。
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お昼くらいまで、テラスでゆっくりと時間を過ごしたい。
という欲求を押し殺し、宿をあとにする。
見送り時、近道がある、と宿の主人に道を教えてもらい、そのとおりに進む。
が、5分もしないうちに迷い、けっきょく地図にあるとおり国道の道を走る。
ゆるやかなアップダウンが続く道は、そこそこ快適に思える。
昨日はちょっとした坂でもうっとうしく思えたのに。
やはり、夕方と朝とでは、気分が変わるのだろうか。
しばらく走っていると、1台の車が徐行して、僕のすぐ横にくる。
お宿の方々だ。
エールをいただきうれしい反面、教えてもらった道と違うところを走っていることの、罪悪感を覚える。
昨夜のお酒のせいだろうか、午前10時ごろ、急激に眠くなる。
しかし、休憩できる場所がなく、もうろうとしながらひたすら走る。
危険な状態のまま走ること1時間、コンビニを見つけたので、少し早めの昼食をとる。
さすがに駐車場で横にはなれないので、座りながら少し寝る。
が、やはり横にならないと、しっかり眠れない。
もうしばらく走り、大きく珍しい形をした木々が並ぶ、遊歩道へ移動する。
ベンチがあったので、ここであらためて仮眠をとる。
仮眠でリフレッシュはしたものの、空がずっと厚い雲で覆われているせいか、気分がさえない。
そう思っていた矢先、「財宝」というミネラルウォーターの販売店で、店員さんに呼びとめられる。
よかったら飲んでください、とペットボトルを1本差し出される。
どうやら、お客さんから「キックボードで走っている旅人がいる」とのことを聞き、水を渡そうと待ってくださったそうな。
で、この1本は会社からではなく私からです、ということだったので、おそらく自腹を切ってくださったのだろう。
本当に、うれしいやらありがたいやら。
このおかげで、気分も一気に高くなる。
やがて、桜島に到着。
思っていた以上にアップダウンがはげしい。
また、歩道がなく、路肩もせまい。
さらには、「爆発の噴石が落下する恐れがある」との看板も。
さまざまな危険を含んだ道を、ひたすら走る。
勾配がきつくすぐ疲れるのだが、休もうにも腰を下ろせる場所がないため、ただただ進むしかない。
「有村溶岩展望所」という、広めの公園でようやくひと休憩。
もくもくと煙を出した山が大きくそびえるさまと、その逆にはまっ黒い溶岩に松が生いしげる景色が広がる。
非日常的で、何とも幻想的である。
しかしそんな景色も、素直に楽しめない。
というのも、途中から雨が降り始めたのだ。
こんな危ない道が続くところで、さらに危険要素が加わるというのは、本当にカンベンしてほしい。
案の定、展望台をあとにしてからも、アップダウンが続く。
ただ、先ほどのように荒野を抜けるのではなく、人里なので、安心感はある。
桜島の西端に到着してからは、鹿児島行きのフェリー乗り場へ。
目の前で乗り過ごしたものの、15分待てば次の便が来た。
今夜の宿であるゲストハウスに到着したのは、昨日に続き、日没後の午後7時過ぎ。
1つの部屋に2段ベッドが5つほど置かれた相部屋は、何とも殺伐とした雰囲気。
ベッドがほぼ満席のうえ、それぞれがカーテンを仕切って黙々と時間を過ごしているから、余計にそう思えるのかも知れない。
空間の雰囲気に耐え切れず、すぐさまロビーへ出て、シャワーを浴びる。
シャワーでは疲れがとれそうにないため、本当は近くの銭湯にでも行きたかったのだが、そんな悠長な時間もない。
食事も、スーパーを探す時間と元気がなく、近所のコンビニで買う。
ロビーで食事をとろうとすると、すでに僕以外の日本人1名と、外国人2名が談笑している。
そこに混ぜてもらうこととなる。
英語は決して得意ではないため、終始苦笑いをかわす程度。
一応、単語を拾って聞くと意味はわかるので、まったく退屈というわけではない。
さらに、途中からは屋上へ移動。
屋上では、若者のグループがギターや打楽器を持ち寄り、セッションをしている。
BBQコンロに火をくべ、さらに雰囲気を演出している。
その煙が、僕の洗濯物に思いっきりかかっているのだが、この際気づかないふりをせざるを得ない。
その若者グループから、「水たばこ」をすすめられる。
本物を見るのも、吸うのも、はじめてである。
吸ったときに、気管から肺にわたって、ぬくもりを感じる。
で、鼻から煙を吐き出したときに、青りんごのいいにおいが、ブワッと広がる。
大量の湯気が鼻から放出される光景もあいまって、なかなか気持ちいい。
早く寝なければ、という気持ちを抱きながらも、午後11時過ぎまで居座ってしまった。
不安感よりも、ただただ平和に満たされた雰囲気が、心地よかった。
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