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キックボード九州一周〜中編〜    【2日目】
● 2014年4月30日(水) くもり 鹿児島県志布志市〜鹿児島県鹿児島市



気分のさえないときに、まさかの差し入れ。
冷えた水とエールは、何よりの財宝である。


溶岩のすき間から、無数に生える松の木。
植物の力強さを、まざまざと感じられる。


どこまでが雲なのか火山ガスなのか、絶えず山頂が
くもる御岳。間近で見る活火山の迫力はすごい。


ギターにジャンベに水たばこ。ヒッピーに
なれた気がする、貴重な長崎の夜。
お昼くらいまで、テラスでゆっくりと時間を過ごしたい。
という欲求を押し殺し、宿をあとにする。
見送り時、近道がある、と宿の主人に道を教えてもらい、そのとおりに進む。
が、5分もしないうちに迷い、けっきょく地図にあるとおり国道の道を走る。

ゆるやかなアップダウンが続く道は、そこそこ快適に思える。
昨日はちょっとした坂でもうっとうしく思えたのに。
やはり、夕方と朝とでは、気分が変わるのだろうか。

しばらく走っていると、1台の車が徐行して、僕のすぐ横にくる。
お宿の方々だ。
エールをいただきうれしい反面、教えてもらった道と違うところを走っていることの、罪悪感を覚える。


昨夜のお酒のせいだろうか、午前10時ごろ、急激に眠くなる。
しかし、休憩できる場所がなく、もうろうとしながらひたすら走る。
危険な状態のまま走ること1時間、コンビニを見つけたので、少し早めの昼食をとる。
さすがに駐車場で横にはなれないので、座りながら少し寝る。

が、やはり横にならないと、しっかり眠れない。
もうしばらく走り、大きく珍しい形をした木々が並ぶ、遊歩道へ移動する。
ベンチがあったので、ここであらためて仮眠をとる。


仮眠でリフレッシュはしたものの、空がずっと厚い雲で覆われているせいか、気分がさえない。
そう思っていた矢先、「財宝」というミネラルウォーターの販売店で、店員さんに呼びとめられる。
よかったら飲んでください、とペットボトルを1本差し出される。

どうやら、お客さんから「キックボードで走っている旅人がいる」とのことを聞き、水を渡そうと待ってくださったそうな。
で、この1本は会社からではなく私からです、ということだったので、おそらく自腹を切ってくださったのだろう。
本当に、うれしいやらありがたいやら。
このおかげで、気分も一気に高くなる。


やがて、桜島に到着。
思っていた以上にアップダウンがはげしい。
また、歩道がなく、路肩もせまい。
さらには、「爆発の噴石が落下する恐れがある」との看板も。

さまざまな危険を含んだ道を、ひたすら走る。
勾配がきつくすぐ疲れるのだが、休もうにも腰を下ろせる場所がないため、ただただ進むしかない。


「有村溶岩展望所」という、広めの公園でようやくひと休憩。
もくもくと煙を出した山が大きくそびえるさまと、その逆にはまっ黒い溶岩に松が生いしげる景色が広がる。
非日常的で、何とも幻想的である。

しかしそんな景色も、素直に楽しめない。
というのも、途中から雨が降り始めたのだ。
こんな危ない道が続くところで、さらに危険要素が加わるというのは、本当にカンベンしてほしい。


案の定、展望台をあとにしてからも、アップダウンが続く。
ただ、先ほどのように荒野を抜けるのではなく、人里なので、安心感はある。

桜島の西端に到着してからは、鹿児島行きのフェリー乗り場へ。
目の前で乗り過ごしたものの、15分待てば次の便が来た。


今夜の宿であるゲストハウスに到着したのは、昨日に続き、日没後の午後7時過ぎ。
1つの部屋に2段ベッドが5つほど置かれた相部屋は、何とも殺伐とした雰囲気。
ベッドがほぼ満席のうえ、それぞれがカーテンを仕切って黙々と時間を過ごしているから、余計にそう思えるのかも知れない。

空間の雰囲気に耐え切れず、すぐさまロビーへ出て、シャワーを浴びる。
シャワーでは疲れがとれそうにないため、本当は近くの銭湯にでも行きたかったのだが、そんな悠長な時間もない。
食事も、スーパーを探す時間と元気がなく、近所のコンビニで買う。


ロビーで食事をとろうとすると、すでに僕以外の日本人1名と、外国人2名が談笑している。
そこに混ぜてもらうこととなる。
英語は決して得意ではないため、終始苦笑いをかわす程度。
一応、単語を拾って聞くと意味はわかるので、まったく退屈というわけではない。

さらに、途中からは屋上へ移動。
屋上では、若者のグループがギターや打楽器を持ち寄り、セッションをしている。
BBQコンロに火をくべ、さらに雰囲気を演出している。
その煙が、僕の洗濯物に思いっきりかかっているのだが、この際気づかないふりをせざるを得ない。

その若者グループから、「水たばこ」をすすめられる。
本物を見るのも、吸うのも、はじめてである。

吸ったときに、気管から肺にわたって、ぬくもりを感じる。
で、鼻から煙を吐き出したときに、青りんごのいいにおいが、ブワッと広がる。
大量の湯気が鼻から放出される光景もあいまって、なかなか気持ちいい。


早く寝なければ、という気持ちを抱きながらも、午後11時過ぎまで居座ってしまった。
不安感よりも、ただただ平和に満たされた雰囲気が、心地よかった。


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